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「もやし」と「種麹」と「麹菌」


微生物を扱った「もやしもん」というアニメ漫画があります。主人公は実家が種麹メーカーの大学生で菌が肉眼で見える特殊な能力を持っているそうです。さて、昔は種麹のことを「もやし」と呼びました。 麹菌の胞子が伸びていく様子から、草花が芽生える意味の「萌える」という言葉が訛ったと伝えられています。この呼び方は今でも使用されており、特に酒造メーカーで「もやし」という呼び方が多く使用されています。 逆に醤油や味噌、焼酎を作っているメーカーではほとんど使用することはありません。

明治時代以前の味噌や醤油の製造では種麹を使用することはほとんどなく、蒸した穀物に自然に発生したカビや前回製造した 麹の残りを混合して麹を作成していました。 味噌や醤油製造に「タネ(種麹)」が使用されるようになったのはそれ以後(明治中期以降)のことです。 つまり、古くから麹を作成するのに「もやし」を使用していたのは清酒製造だけで、味噌や醤油がお酒造りの麹造りと同様に、 タネを使用するようになったのは明治時代に入った百数十年前頃からなのです。

明治中期頃になりますと、「もやし」自体の解明もすすみ、種として使用する麹、すなわち「種麹」という言葉が作られたようです。 ですから清酒製造には昔から「もやし」が使用され、時代が進み、種麹という言葉が作られた頃から、 種麹を使用するようになった「味噌、醤油製造」においては、その時代を象徴する、 あるいは従来の「もやし」と異なるという意味を含めて「種麹」という言葉が好んで使用されたと考えられます。

この「もやし」こと「種麹」はまさに麹菌の胞子そのもので、日本では古来から微生物そのものを培養して販売する仕事が職業として成り立っていたことになります。これは世界に類を見ない日本独自の産業といえ、古来より日本は世界のバイオの最先端を走っていたわけです。その技術の一端を現すのが、麹菌を培養する際に木灰を添加する技術です。木灰を添加することにより、蒸したお米がアルカリ性になり雑菌の繁殖が抑えられたり、表面の粘り気を無くし微量の金属を含むため胞子形成が良くなるなど、近代科学の目から見ても非常に合理的な裏づけのある技術でした。

この種麹製造業は、長らく京都で当社を含めた2社しか許されておらず、現在でも専門メーカーは全国で10社を下回っています。先述のアニメ漫画「もやしもん」の主人公は種麹メーカーの息子という設定とのことですが、金が肉眼で見えること同様に、種麹メーカーの息子という設定も珍しいことなのかもしれません。